布施

ふせ

Fuse Area | CASE STUDY NO.07
 

地域が自立してものごとを考える、生き残るにはそれしかない

長年の積み重ねの上に

布施地区は、邑南町でもっとも人数の少ない地区である。人口166人、79戸。だがそのぶん、団結力は強い。地区別戦略実行委員長の品川隆博さんはこう話した。
「布施の地域づくりは2004年の夢づくりプランから、いまの発展事業までずっと連続して続いているんです。旧瑞穂町の頃に、当時の人たちが10年後、20年後を考えて積み上げてきたことが、いま役に立っている」

夢づくりプランを通して、地区内には2つの農事組合法人「ファーム布施」と「赤馬の里」ができた。赤馬の里は、いまでは高齢化によりメンバーが抜け、任意団体になっているが、このおかげで布施地区には耕作放棄地が少ない。

品川さんたちが見せてくれた、集落の状況を表す地図が印象に残っている。地図上に赤い丸や黄や緑のアイコンが記され、どの家が65歳以上の単身世帯で、どこが空き家かなどが一望できるようになっていた。夢づくりプランの頃から、一戸ごとの状況を把握するこの「集落点検」が、すべての取組みの起点にある。

2016年度より始まったちくせんでは、こうして積み上げてきたプランに、予算がついたことで対策がぐっと前に進んだ。

「ちくせんに関わっていると、この地区の資源、いいところにも目が向く一方で、俯瞰して課題が見えてくるんです。こことここは手を打つべきと、関連性を考えながら事業を自分たちで組み立てていける。そこが従来の自治会とは違っています。要所を押さえれば、少ない人数でも何とかやっていける。私たちのような地区が生き残るにはそれしかないと思っています」(品川さん)

寄り合い処の開設と「くらし応援隊」結成

では具体的にどんなことが進んだのだろう。

ちくせんでは「健康福祉部」「定住促進部」「農林振興部」と三つの部が構成された。コミュニティ再生事業までは、主に農業をフックにした産業振興や新規就農者のサポートが進んだが、ちくせんでは健康福祉の面で大きな飛躍があった。

まず地域の拠点として、古民家を改修して「銭宝の寄り合い処」が開設された。そこで「サロン田屋」を開催。
週一度の健康チェックや体操が行われる。農村公園や公民館ホールでの運動・ゲームと昼食を共にする「いきいきサロン」も月に一度は行われる。布施地区の高齢化率は50パーセント以上。だがひきこもりのお年寄りは一人もおらず、こうした取り組みが始まったおかげで、女性については介護認定率が26.3%(2016年4月)から22.4%(2021年4月)へ下がったという。
サロン田屋で不定期に開かれる「長ぐつCafe」ではフリーマーケットなど定住促進部の企画が催され、若い人たちや子どもも集まった。

さらに始まったのは「暮らし応援隊」。単身高齢者を支えるために、地域住民が有償ボランティアとして草刈りや除雪作業をサポートするしくみである。利用料金は1時間 1350円。そのうち1100円が作業者に入り、残りの250円が事務費となる。

「稼ぐとまではいかなくても、燃料代くらいにはなります。いま応援隊の登録者は15人ですが、実働は8名ほど。このメンバーも平均年齢77歳。ここを何とかしていきたい」

彩り豊かで四季を感じられる配食サービス

2020年の4月には、三上富子さんを中心に、地域の女性有志8名が集まって高齢者向けの配食サービスが始まった。寄り合い処の横を加工所として整備し、毎週一度食事づくりを行っている。始まった当初は30食ほどだった注文はいま60食に増え、配食サービスも月に2回から3回に増やした。月に一度は役場や教育委員会、社会福祉協議会などにも出向いてお弁当を販売している。

「賃金は安いんですよ、時給500円。でも何もないのとでは気持が違いますよね」と三上さん。

「食材や加工場の賃料、つくる人たちの賃金をのぞくとちゃんと利益が出ています。この事業をもっと発展させていけたらと思っています。やっぱり補助金だけでは続かない。目に見えてものがきちんとできてきて、お金の流れもあるのがすごく大事です」(品川さん)

地域で採れた野菜や米でつくるお弁当。彩り豊かで四季を感じられる献立は目にもやさしく、食べる人を幸せな気持にする。市販の弁当と違って、週に一度でも手づくりの食事をいただけるのは、とくに単身のお年寄りにとっては嬉しいことだろう。

地区運営に求められる役割が高度に

ちくせん第1期の実現事業ではうまく進まなかった面もあった。農業の経営効率化推進を目的にドローンの活用も検討したが、機種が多すぎるなどの難点がありそれ以上進まなかった。定住促進でも9名が定住したが、施策がうまくいったというよりUターンなど自然の流れでそうなったに近い。

2021年度からの発展事業では、新しい動きが始まった。農林振興部では、将来、地区内の3つの集落がまとまるのが不可欠と考え、40代の若手が中心になって3集落の水路や、獣害についてのデータ集めを始めている。定住促進部ではUターンしてきそうな人に話を聞いたり、子育て世代の交流を促す会を企画している。

何より大きな課題は、ちくせんのこれまでの動きをどう今後につないでいくか。いまの中心メンバーの跡を継ぐ体制ができていないことだ。

「やはり若い方たちは本業が忙しいし、子どもがいればやることがいろいろありますからね」

継いでくれる人といっても、ただ頭数をそろえればいいわけではない。取組を継続して発展させようと、ときには知恵を働かせ、行政と交渉し、情報収集までできる人。そう聞くとハードルが高いが、いまのメンバーはそこまでやっているということでもある。それだけ地区運営に求められる役割が高度になっている表れだろう。

地区は「小さな役場」になりつつある

ちくせんをはじめこれまでの地域活動を通して、町外の人と地区の間にさまざまな交流が生まれた。NPOや学生が訪れて、外の目線から地区のよさに気付かせてくれたり、背中を押された面もあるという。

「私はそれがちくせんでよかったことの一つだと思っています。本来ちくせんで目指したのは、『ここにおったら歳取っても安心して暮らせるよ、一人でも大丈夫だよ』ってこと。大きな意味では定住促進につながるんです。その部分の発信をもっとやっていきたい」(三上さん)

そうしていま、ちくせんの運営組織は、単体では切り離せない、地域活動の母体になっている。「次はこれ、次はこれ」と優先すべきものを、異なる事業の財源を組み合わせて進めている。

「どこでどんな助成の出る事業があるとか、行政との連絡を密にして情報収集するのも大事です。たとえば交通もいま、地区の一つの課題ですが、町が交通体系を見直している最中でどう進むかわからんから、その様子見をしている」(品川さん)

行政の側は社協、福祉課、農林振興課など、縦割りの組織でそれぞれの事業を行っている。重複感のある事業が乱立し、地域の側はふりまわされがちだ。それを布施では逆に、地域が主体になって必要なことを見極め、実現するために行政の事業をあてはめていく。

「これまでは国や地方自治体が行っていた仕事が地域に降りてきているんです。だからいかに地域が自立してものごとを進められるかが大切になっている。ちくせんもあるし、社協の支え合い会議もあるし、色々あると。それぞれを違う組織にしないで、一本化して判断していく。小さな役場のような感じです」

小さな地域だからこそ、地区が主体性をもって。
布施においてちくせんは、間違いなくその後押しになっている。