田所

たどころ

Tadokoro Area | CASE STUDY NO.04
 

「あんなことしたのう」って後でみんなで思い出せる活動をしたい

自治会を越えたつながり

第2期、田所地区のちくせんメンバーには、30~50代の若手がずらりと揃った。地区内5つの自治会から地域に思いのある面々が集い、10名から成る少数精鋭の執行部隊を結成。第1期にできた「どがあずしょう会」の体制が刷新された形になる。「どがあずしょう」とは「どうにかしよう」の意味である。  
新しく会長に就任した、三上結城(ゆうき)さんはこう話す。
 
「毎回、中身の濃い会議をしたかったんです。役員が大勢いて部ごとに進めるスタイルではなくて、ここで一本化しようと。各自治会からバランスよく入ってもらって。みんな自分の意見をしっかりもっている人たちばかりです」
 
インタビューの場には三上会長のほか、副会長の田中浩二さん、「合同会社たどころ」代表の岩本和敏さん、事務局長の上田賢和(よしかず)さん、公民館主事の有井貞之(ありいさだゆき)さん、洲濱満(すはまみつる)さんら6人が集まった。
 
田所の公民館区内には、5つの自治会が存在する。ちくせんは公民館単位で進めることになっているため、自治会の枠を越えて協力し合う必要がある。ところが、これまで自治会や集落に対して強い地元意識をもつ田所では、公民館区でまとまりにくい状況も抱えている。
 
田所地区にとってちくせんは、自治会を越えて住民同士が結束する一つの機会になったとも言える。

第1期でやってきたこと

第1期は5自治会からそれぞれの役員が集まり、にぎわい部、つながり部、空き家部の3つの部会ごとに分かれて取組みを進めてきた。  
にぎわい部では主に、道の駅再開発の構想が進んだ。地区住民にアンケート調査を行い「夢の道の駅構想」の模型を制作。公民館まつりで展示した。これが影響してかどうかは不明だが、道の駅の再開発事業が正式に町で決定し、いまは県や町役場が主導で話が進んでいる。
 
つながり部では、住民の顔写真をもとにモザイクアートをつくるプロジェクトや、冬のイルミネーション、熱気球の乗船体験などを行った。なかでも力を入れたのは「おおなんカレー」の開発である。地産の食材をつかった加工品をつくろうと、2年ほどかけて試作品をつくり、レシピを検討してきた。その結果、できたのは地元亀谷の味噌、いわみポークを用いたレトルトカレー。2019年8月に発売し、現在では「道の駅 瑞穂」ほか広島の商業施設でも販売しており、月に30~40個は売れている。
 
空き家部では、地区の空き家を調査し、IターンUターン者に貸し出すことを目標にして進めてきたが、家の所有者が町外にいるケースも多く、なかなか思うように成果が得られなかった。

二ツ山の整備を通して、楽しみを分かち合う

そうして迎えた第2期の発展事業。まず計画策定時には、地区内の全住民に意見交換会の案内を送付。2020年11月24日、公民館に約50名が集い、ワークショップ形式の意見交換会が実施された。  
そこで出た意見から、第2期のちくせんで注力する二つが決まった。一つは地区内にある山城、「二ツ山城」の魅力化。二ツ山は小学生が遠足などで登る、地元住民にとっては馴染みの深い山だ。ここを整備し、住民が利用しやすい魅力ある場所として発信をしていく。
 
もう一つは、前期に続き「おおなんカレー」をさらに発展させること。「道の駅 瑞穂」での販売だけでなく、地区内の洋菓子店「イナダ」と提携し、「おおなんカレーパン」を販売し始めた。今後はキッチンカーで地区のイベントに出店することも検討している。
 
二ツ山の整備は、すでに一度清掃活動を行った。どがあずしょう会のメンバーだけでなく、地域住民にも広げていくのがこの4年間の目標だという。
 
「2ヶ月に一度はやろうと話していて。そういう気持を俺ら以外の人たちにも持ってもらえるといいなと思ってます。2年後には、50~60人体制でやれたらかっこいいんですけどね」(三上さん)
 
いまはコロナで活動が止まっているが、青年部や子供会にも声をかけて、清掃後にバーベキューを行う計画もある。整備が進んだ暁には、子どもたちとの遠足や雲海を見るイベントなど山に入る機会を増やしていきたい。そうした楽しみをモチベーションに清掃活動を進めている。

どちらが“地元”か?

ところが前述したように、これまでの“地元”である自治会と、ちくせんの単位である公民館区の活動には、重複感があることも否めない。  
「もともと各自治会にしっかり活動があるんです。青年部もあるし、子ども会の活動もある。その上ちくせんも、となれば大変にもなるので」(洲濱さん)
 
「たとえば90歳のおじいちゃんおばあちゃんも、地元の盆踊りには出てきてくれます。これが公民館単位になると、遠いけん、ええわってなる。親戚など出身者がよそから帰ってきて参加する気になるのは、やっぱり小さい頃の思い出のある、地元のお祭り」(有井さん)
 
本音のところでは、みなどちらに力を入れたいと思っているのだろう。そう問うと、みなが一瞬沈黙した。
 
「正直、どっちとも言い切れない。全体でって思いもあるけど、いまの地元のつながりも大事にしたい。範囲が広がると関係性も薄まってしまうので。お祭りなど地元で一斉に集まると結束力があるんですよね」(洲濱さん)
 
「過去には盆踊りを全自治会で一緒にやったこともあるんです。でも、自分ところの踊りは自分の地域でせんと気がすまんと、結局2回やることになって。盆踊りは一つにまとめるのは無理かもしれん。でも秋の公民館まつりはみんなでやりますけぇ。やることによって分ければいいのかな、とか」(田中さん)
 
「ただ10年、20年先を考えると、いまのままでは厳しくなる。小学一年生が出羽と合わせても28人です。自治会単位では小さすぎるようになるかもしれん。いまのうちになんとか自分らが一緒にやっていく体制をつくりたいとも思っています」(岩本さん)

団体や活動のつなぎ役、ハブ機能として

そうした葛藤から、彼らがちくせんを進める上で出した答えは、「どがあずしょう会」を、地区内の団体や人同士の“つなぎ役”にすることだった。  
「この執行部はあくまでまとめ役。我々だけで頑張るんじゃなくて、今それぞれの地域にある青年部などと一緒に何かをやる。あとはパイプ役です。地区内にある活動や人同士をつなぐ、ハブみたいなもんです」(州濱さん)
 
例えば、二ツ山を利用してイベント企画している団体があったら、それを「どがあずしょう会」が共働してサポートする。
 
「こちらが主役である必要はないので。向こうで何かやるときにこっちがバックアップするとか、こっちが何かやろうとしたときは逆に手伝ってくださいとか」(田中さん)
 
地区内の人たちにとって、このチームが「強力な助っ人」になりえるのかもしれない。そう言うと、みな「そうなりたい」と声をそろえた。
 
「なんというか、記憶に残したいんですよね」と言ったのは岩本さんだ。
「あとからみんなで『ああ、あんなことやったのう』って思い出せるような活動をしたい。『あんときは草刈りやってしわかった(きつかった)のぉ。でもようやったな』とか。そういうことが重なって大事なもんができていく気がするんです」
 
田所らしい地元の形を模索するうちに、これまでより一回り大きな“地元”ができていく。それもちくせんの一つの成果といえるだろう。