高原

たかはら

Takahara Area | CASE STUDY NO.06
 

暮らしの中心にある「公民館」をサードプレイスとして

公民館活動の先進地、旧瑞穂町

高原公民館の入り口は、オレンジ色にピンクに白…とさまざまな色に咲き乱れる花で彩られていた。手入れの行き届いた花壇に、夏野菜の枝葉も勢いよく伸びている。  
「手伝ってくれんか~って声をかければ、公民館のことならと地区のみんなが、ばっと集まってくれるんです。今週末も草刈りするんですよ」と話すのは公民館長の東義正(ひがしよしまさ)さんだ。
 
邑南町は2004年に旧瑞穂町、石見町、羽須美村が合併して生まれた。そのうち旧瑞穂町は、全国的に有名な公民館活動の先進地でもある。いまも高原の公民館は、人びとの暮らしの中心にあり、住民主体で運営されてきた。
 
「ちくせんは公民館区の単位でやると町長が発表されたわけやから、その後の関わり方は色々でしょうけど、最初はどの地区も公民館から話がいっとるはずです」(東さん)
 
合併後の公民館の立ち位置は、町内でもさまざまだ。だからこそちくせんへの関わり方にもばらつきがある。社会教育を主とする公民館事業とちくせん事業では、目指すところは近くても、手段が異なる。高原では、公民館がちくせんの事務局を務めながらも、実働組織としては、ちくせん向けに別につくるところから始まった。

若い人を中心に始まった3本の柱

まずは公民館から呼びかけて、議員や自治会長ほか団体長に集まってもらい、ちくせんをどう進めようかと話し合いがもたれた。  
「これから先の地区のことを考えるのなら年寄りじゃなく、若い人たちでやる方がええってことになって。公民館だよりで募集したけどなかなか集まらんので、私が個別に声をかけて30名ほどが集まりました」(東さん)
 
自治会とはまるで違う20代~60代の顔ぶれで、ちくせんを進める団体「高原を楽しくする会」を設立した。まずは何をするかを話し合い、さまざまに挙がった案の中から「山の学校」「田舎でスロー体験」「古材バンクの設置」の3本を選出した。
 
「山の学校」では、放置されている山の手入れをして、里山の価値を見直すきっかけにしようと、山林整備のためのロープワークやチェーンソー講習会など、技術を身につける場を設け、整備活動を行った。
 
「田舎でスロー体験」は、空き家と遊休農地を生かした都市住民との交流を模索。田舎暮らしの魅力を伝える体験プログラムを用意した。「神楽団1日体験」や、地元の野鍛冶屋に包丁研ぎを習いアジのさばき方を教わる会などを開催。また高海(たかうみ)の「化石発掘体験」も人気があり参加者は2年で350人以上になった。
 
「古材バンクの設置」では使われなくなったハデ木(刈った稲を干すための木)を材料に、ベンチや椅子を制作する木工教室を行った。町外、県外からの参加者も多く、みんなのこぎりやインパクトドライバーの使い方を教わりながら作業を楽しんだ。

地域法人のあり方

順調に進んでいるように思われたちくせんだったが、次第に足並みがそろわなくなっていく。  
「最初はよかったんだけども、メンバーが一人減り二人減りしていったんです。自分が活躍できる場がないということだったのかもしれんし、疲れが出たのかもしれん。メンバーの中には人一倍いろんなことに手を出す人もおって、みんなで一つの方向に向かえんくなったこともあると思っています」
 
前述の取組に加えて、「山の学校」チームから地元の食材で加工食品をつくる活動が生まれた。地元の企業と共同でアイスクリームや石見ポークのカツサンドなどを開発し、道の駅や地元のショッピングセンターで販売するまでになっている。ただしこの活動は「地域団体たかはらんど」として、ちくせんから独立して動くことになったという。地区全体の活動ではなく一部の人による営利活動だという理由から、ちくせんからは切り離されたのだ。
 
地区に新しい営利団体が一つ生まれたと考えれば大きな功績だが、メンバー間で意識共有ができず、地区のための地域法人として認められなかった点では課題も残る。
 
高原に限らず、地域法人のあり方は、ちくせん事業が抱える舵取りの難しいポイントでもある。町からは法人化が推進される一方で、その団体は利益優先ではなく、地区のためという公的な大義を求められる。
 
だが利益を目指す法人である以上、スピード感、サービスや商品の良さでお客さんに選ばれなければならず、合議制でモノゴトが進む地域活動とは大きく性格が異なる。
 
では高原の場合、どうすればよかったのか。教訓を得られるとするなら、地域内での意識共有、メンバー間の足並みを揃えること、収支の透明化などの重要性などが言えるだろうか。ただし明確な企業統治のしくみやルールがあるわけではなく、仮に前のめりでお金儲けに走る動きが出てきた時、それを制するのは誰の役割なのか。どこまでが地域のための法人と認められるのか。現時点では簡単に答えられる話ではなさそうだ。

自治会ごとの違い、恵まれた立地ゆえの危機感の薄さも

「さらなる課題は発信力の弱さです」と東さんは省みる。公民館だよりなどで情報を出してきたが広く浸透せず、「高原のちくせんは一部の人たちでやっとる」という雰囲気になってしまったという。  
高原には、ほかの地区と比べて生活に必要な施設が充実している。保育所、学校、病院のほか、お店や金融機関もある。交通面も町営バスが通り、住民はそれほど困っていない。
 
「やっぱり町の端の方と比べると、危機感が薄いんやと思います。漠然とした不安はあるけど明日困るわけじゃないのでね」
 
もう一つ。ちくせんで難しさが露呈したのは、地区内に2つある自治会の性質の違い、ものごとの進め方の差異が顕著に表れたことだった。
 
「高原には、和田原と高海という2つの自治会があるわけです。和田原のが堅実、地道な性格なのに対して、高海はまぁお祭り好きでみんな賑やかな気質で。どっちが悪いやなしに、ものごとの進め方も考え方も違っているんです」(東さん)

公民館と連携しながら進めていく

これらの反省点をふまえて、高原地区では第2期の発展事業で、体制からリセットし、以下の4本を行っていこうと方針を固めた。  
まずは、第1期で地区内への周知が足りなかったと「情報発信力の強化」を一番に掲げた。SNSや紙媒体を通じて定期的な発信をめざす。2番目に「自治会単位での課題解決の検討・実行」。公民館区全体で進める事項もある一方、より住民に密接な困りごとは無理に一つにせず各自治会単位で検討する。3番目に前期の里山の再生整備は今後も続ける。
 
その上で4番目に、改めて高原の強みである「公民館」を地区の拠点、住民の “サードプレイス”として活用してもらうことを挙げた。サードプレイスとは家、職場や学校とは別の第三の居場所という意味。公民館主事の上田裕介さんはこう話す。
 
「公民館事業はもともと社会教育。ちくせんとはアプローチの仕方は違いますが、長く住み続けたい地域づくりという意味では、目指すところは同じです。もともと高原には、小学校や公民館のことなら“よっしゃやってやろう”と、人が集まる文化がある。なので公民館をもっと利用してもらいながら、ちくせんにも生かせたらと。今回公民館の計画にも地区別戦略との連携が入っています」
 
第1期の課題を最大限に反映した内容になった第2期。高原ならではの公民館と、自治会の両輪を生かした新たなちくせん事業が、これから始まる。