出羽

いずわ

Izuwa Area | CASE STUDY NO.05
 

20年先を見据えてできた「夢づくりプラン」の先に

「夢づくりプラン」で考えた、20年先の未来

邑南町の地域づくりは、ちくせん事業(以下、ちくせん)から始まったわけではない。2004年の旧町村合併直後の「夢づくりプラン」事業に始まり、2011年度からの「地域コミュニティ再生」事業と続いてきた延長上に、2015年度からのちくせんがある。  
出羽の地域づくりも、2009年の「夢づくりプラン」から始まった。その中心になったのが、出羽では自治会である。現・自治会部員で、町職員でもある三浦雄一郎さんはこう話した。
 
「じつは出羽では、自治会の歴史が浅いんです。町村合併後に初めて自治会を組織することになって、生活部、産業部、交流部の三つの部と、総務部(現・事務局)、役員会の構成ができました。部員や役員を、よくある持ち回り制ではなく、やる気のある人、やってくれそうな人に引き受けてもらって、その方法がいまも続いている。おかげで20~30代と若い人も多い。これが他の地区と違うところかもしれません」
 
各部で毎月一度、10~12人のメンバーが集まり、どういうことをやろうと話し合う。そこから出た案を決議するのが役員会。この二部構成により、鶴の一声でものごとが決まるようなことはなく、ボトムアップの意見が実現しやすい体制になり、うまく機能してきた。
 
体制はできたものの、じゃあ何を目指すかという段階で取り組んだのが「夢づくりプラン」だった。
 
小学生以上の全地域住民900人にアンケートを取り、20年後の地域がどうあってほしいか、いまの問題点などの声を集めた。これを元にできた中長期計画には、鮮やかな色合いで楽しげなイラストとともに地域のビジョンが描かれた。この「出羽夢づくりプラン」には「お互い様の気持ちで助け合い、集落や世代をこえて支え合う」とある。その助け合いを、現代に合ったしくみで実現していくとある。

LLCと空き家対策

夢づくりプランを機に生まれたしくみには、地域通貨「カッパ」や、人材バンクなどがあった。その一つで、いまも機能しているのが合同会社「LLC出羽」。2013年設立と、町内でも比較的早くできた地域法人である。  
LLC設立の引き金になったのは、小規模農地の集約とサポート体制を築くためだった。出羽には集落営農組織が三つあるが、そこではカバーできない農地を地区全体で支えるしくみを「農業サポート事業」として開始。現在は10人ほどの農業者が関わり、耕作依頼のくる田畑を割り振った上で、誰も手をつけられない不便な田畑をLLCで引き受け、Iターンの新規就農者が耕作するなどしてサポートしている。
 
またLLCでは農業に限らず、空き家の斡旋や、定住サポートなどあらゆる事業を行うことができるよう、さまざまな業務が定款に盛り込まれている。いま収益として大きいのは空き家の斡旋だ。
 
自治会から事務委託を受けるかたちで、LLCが物件の査定や家主との交渉、入居者とのマッチング、賃貸契約書の作成を行う。家主が自治会に空き家を無償で貸与。固定資産税分(約3万円前後)はLLCが負担する代わりに、改修などは自由にしていい条件になっている。入居者が支払う月3万円ほどの家賃をLLCが積立て、次の空き家の改修費用に活用されるといったしくみだ。
 
ただし、民間の不動産屋の事業を圧迫しないよう民間を優先し、LLCは赤字にならなければいいという考え方で運営されている。

失敗も越えて、ちくせんで進んだこと

こうした夢づくりプランの延長上に、ちくせんが始まった。IターンUターン者の起業支援と地域おこし店舗の創設、定住サポートセンターの設立などが挙げられた。まず着手したのは、地区の中心部である、まちなかのにぎわい創出と交流拠点づくりである。  
もともとあったコンビニエンスストアが廃業になったものの、地区の目抜き通りが寂しい雰囲気になるのは避けたかった。空いた建物を新しい店と交流スペースが入るつくりに改修。地域おこし協力隊の一人と、地域マネージャーを勤めてきた女性の起業を自治会でバックアップ。その甲斐あって2018年には「てらだのパン」「ニジイロ雑貨店」、さらに交流拠点「すまいる」がオープンした。
 
中心部のにぎわい創出につながり、民間の店舗も出店を継続するなどの効果がみられ、開店から2年はうまくいくように見えた。だが運営者の都合でパン屋が閉店してしまう。
 
「自治会で家賃を負担してサブリースしているので、家賃も入らなくなって、自治会でどこまでリスクを追うのかと、お荷物みたいに言われることもありました」と自治会長の高橋雄二さん。
 
だがその後再びパン屋を募集したところ、全国から問い合わせがあり、パン屋「LULU」が開業することに決まった。
 
「Iターン者獲得という意味では、前の方も地域に残っていますし、2年で4名の移住者が生まれている。LULUも新潟からの移住者さんです」と高橋さん。
 
2021年4月にオープンした2軒目のパン屋「LULU」は、オープンして間もなく、お昼にはパンが売り切れてしまうほどの人気店に。30種類のパンが並び、クロワッサンやフルーツサンドが人気。
 
お隣のニジイロ雑貨店には、店主の竹内美紀さんにより全国の作家から取り寄せたアクセサリーや小物、洋服などが置かれている。ちょっとした贈り物や誕生日プレゼントを選ぶのに利用する人が多い。
 
新しい取組を始めると、うまくいくことばかりではない。ただし、失敗込みで踏み出したことで、二つの人気店と交流スペースが生まれた。この事実は間違いのないものだ。

風化していく地域のビジョン

だが第1期の実現事業では、町が人口対策を第一に掲げたため、地元の人たちと自治会の間に距離ができたと高橋さんは振り返る。  
「IターンUターンを増やそうとして、外にばかり目が向いていたからですね。ただ今度の発展事業では、地元の活性化も目的に入ってきたので、また地域の人たちが関わりやすくなると思っています」
 
夢づくりプランの作成から約10年。部員の多くは代替わりし、当時のプランの本質が共有しづらい状況にもなりつつある。一度立てたビジョンも、アップデートし続けなければ風化してしまう。初期の頃は盛んだった、地域通貨や人材バンクも、最近はあまり活用されなくなっている。

困りごと支援もデジタル化を

出羽では、自治会の任期が終わるとき、辞める人から次の候補を紹介してもらうしくみになっている。そのため、年々部員が若返る傾向にある。第2期の発展事業の計画は、そうした若さを色濃く表すものになった。  
大きい二本柱の一つは「助け合いなんでも困りごと支援」。高齢者の買い物や通院などの生活支援も入っているが、「子どもの見守り支援」、さらには「スマート農業の実現に向けた仕組みづくり」「デジタル化に対応していくための支援」といった言葉が並ぶ。
 
「高齢者もスマホを使ってやり取りができるように、若い人たちが教えるようなことができたらいいなと。ただデジタル化するだけでなく、若い人に気軽に聞ける環境をつくれば、日頃からつながりもできます」(三浦さん)
 
そしてもう一つの柱は「未来へ継ぐ出羽記録保存館」。こちらも地域資源の情報のデジタル化、そのデータの観光利用や定住促進に向けた活用などを考えている。
 
コロナ禍の影響で、社会全体でもデジタル化が進んでいる。夢づくりプランにもあった「手間替えを現代にマッチするしくみで」という発想。再び、若い層によるしくみの再構築が、地区のなかでも始まっている。